ある一人の警官

フェンスの向こう側で、燃え上がる街をバックグラウンドにして無数の人影が呻き蠢いている。かつて人間であった奴ら。今はおおよそ人間ではない奴ら。そいつらの濁った色をした指がフェンスを掴み、離れ、絡み合って壊れた楽器みたいにガシャガシャ、ガシャ…

葬送

月に照らされた淡い雲を纏う野山の、その中にある潜むような集落の中で村人たちは、酒を飲み、歌を歌い、踊りを舞っていた。 そのような人々の間を、一人の少年が走っていく。時折行き交う人々が少年に声を掛け、少年もまた声を返していく。しかしその声の中…

愚痴

背後に、意志を持たないまま積まれていくものがある。堆く己の身を掲げる塔のようなそれはしかし、腐臭を放っており、いずれ倒れるのだろう。音だけは音楽のような壮麗さを響かせながら、後には醜いガラクタの広がりが残るだろう。 だから私はガラクタを積み…

INTPの桃太郎…らしい。

日が暮れる前に芝刈りへ行かなければならなかったが、自分がどこから来たのか、この世界は何なのか、という問いが頭の中で流れ続け巡り巡って時間を巻き取り続けていた。ばあさんもまた、彼女なりの思索に囚われているのだろう、家から出てくる様子はない。…

MBTI界隈に44の質問(世界観を問う44問)回答者・自認INTP

問1.<科学> 科学に何を期待しますか?あるいは、何も期待しませんか?科学によって人類が発展したり謎が解明されることを望みますか?もしくは、科学の進歩が人類に不幸をもたらすだろうと考えますか? 科学とは人類が研鑽してきた体系のひとつだと考えてい…

無銘

夜の中を歩き続けていた。家々から明かりがぽつぽつ消え始めた。息絶えるみたいに。だが、それはただの眠りだった。廻る日々に、忠誠を誓う眠り。家が眠り、人が眠り、日が巡ると太陽に起こされるから人が目覚め、家は依然として眠っていて、日が落ちた時に…

染み

森林浴。つまり僕。の、住んでいる家では夜、エアコンの音だけが響いている。僕とエアコンと、それとパキラちゃんの三人、と、思っていたのに、眠りに落ちると夢の中で、その夢の中で本当に独りだ。そこでも結局布団の中なのだから、夢の中で眠りについてま…

あるとない。 大きく小さい。 意識を言語化出来るか。 イデアの生成力(知覚や身体そのもの) 影への変換(影となる知覚や感覚や身体のもと) 変換の結果(影としての知覚や感覚や感情や身体) noos→nos→M noosは流れそのもの、創造者? Mは創造を体験するも…

メモ

純粋経験とは今現在の知覚をありのままに経験すること。一例として視覚において、リンゴをリンゴとして認識する以前にその色形を知覚しているように、視界に色や形を知覚した際、それが自分が見ているものである、自分の目の前にある、どんな形で色でどのよ…

自然と不自然 メモ

自然性の個人への内在⭐️ 自己認識内において不自然であると認識することが出来る他者の認識内容に不快感を覚えるのはこの「自己と他者では認識の段階に差異があり、段階の進行度は各々に異なる」という構造を見落としている。自然に人一倍過敏になっている人…

紛い物

私に声を掛けた男は、黒一式のジャケットとスキニーパンツ、そうしてごった煮の装飾を纏い、口元の筋を歪めた。色らしい色を目に宿さず、機械的な眼球がてらてらと視界を舐めている。ロボットがもう少し人間に近付こうとすれば、このような姿を手に入れるこ…

共栄

微睡んだ意識の中で重いまぶたを無理くりに持ち上げる。息子の応答に応えなければならなかったからだ。8月の午前五時、仄かに陽が満ちる早朝、さやかに響く歓声に意識を持ち上げられる。妻も目覚めて二人、上体を起こす。 「どうしたんだ」と私が言う。 「い…

多種多様な仮想人格を広大な精神内部にぶちまけた貴方はそのうちに殺されるだろう。と預言者は言った、たぶん自分の予言を余り信じていない夜のガードレール染みた暗くて白い顔。太陽を知らない耽美な肌。日本人形のごとく、少しずつ色味をズラした金と紫の…

寄る辺

夕の射すマンションの通路で隣室の老婆と鉢合わせをした。彼女はなにか黒い布で覆ったものを両手に抱えていて、僕に爬虫類じみた眼を向けていた。いつも小さなしわが無数に彫られた暗い顔をしていて、服は縒れ、比喩でなく異臭を放っていた。僕の目と鼻と感…

日記?──6month2day

夢を忘却した眠りから抜け出ると時刻は午前4時だった。が、空は既に少々青みがかっていたし、しっとりとした熱気があり、鳥がチュンチュンと囀ずっていた。彼らの声には凪いだ水面のような優しさがあり、それが僕に喜びを与えたのでもうすっかりまぶたの重…

吐瀉

気味の悪い暗闇が広がっている。体全体と唇とに柔らかい触感を感じていた。触感の正体がなにかは忘れてしまった。しばらくその感覚に身を委ねていた。暗闇と感触の経験だけがあった。やがてそれらの感覚は無くなった。目蓋を開け光を受け入れると、目の前に…

自己考察メモ ─障害、過去、離人症、スキゾイド、アレキシサイミア

趣味もせずにずっと独りでい続けると、喜びも向上心も苦痛も存在しない、かといって悟りというほど格好のつくものでもない緩やかな虚無とでも言える状態になる。普通ならそうなる前に退屈を覚えて苛立ったり、なにかしたくなるのかもしれないが、以前の自分…

また会おう

独りぼっちの神様になりたい、そのように思った記憶が確かにあった。それは遥か昔、私がまだ若い人間だった頃の、泡沫のような記憶だ。 第三次世界大戦の際に放たれた、生命の肉体を溶かすB・W爆弾が飛び交って飛び交って地球を外周し、隙間無く地球の全土に…

burn my dread

世界のすべてを覆い尽くさんばかりに美しい夕陽の下で緑がそよぎ稲は安らかに垂れ泥は揺蕩いその内部には雑多な生命が揺れて各々輝きを迸らせている、ように見えるその景色はありもしない偽りであることを、私は理解していた。この場所には誰もいない。稲を…

狂人日記

ここにいる僕、あるいは私、俺、君、お前。各々の性質、各々の存在。あまりにも分かたれた対の我らよ。あなた方はあまりにも生きも絶え絶えに這い縋り良くもまあ絶望の穴を埋めては掘ってその形を保とうとするものだ。何回死んだ。きっと億回。世界の有り様…

欲望

そろそろだと感じた。今日もまた、私はあの崖にいかなければならなかった。そのような思考を片隅に置きながら私はマウスやキーボードの上に指を踊らせる。 製品を造るための設計図を作らなければならなかったからだ。これは義務感に乗っ取った退屈な作業でも…

迷走

死んだ曾祖母はキリシタンだった。 一世紀近い時の流れを支えた純白の遺骨を眺めながら僕が考えていたのは、曾祖母の神に対する姿勢だった。国のために、神のために、そのような大きな物語が途絶え微分されたショート・ストーリーが乱雑される現代にあたって…

吐瀉物

世界とは強者の総体である。 私のような矮小な人間が一つの座席を破壊したこと。一つの栄光を剥奪したこと。そのような事実は世界への私の興味を喪失させる。彼らがどれほど情熱を傾けようと私が冷えた弾丸を一度放てばそれはあっさりと頭蓋を穿ちすべてを楽…

語らない男

幼い頃、母の墓参りをした日の夜に、こんな夢を見た。私は家のがたつきの悪い戸をガラと開いた。 「ととん、ととん、魚が釣れたで」 そう声を上げた。が、家の中には誰もいなかった。探しても父はおらず、入ることを禁止されている仕事部屋にいるのかもしれな…

誤解と、僕のツイッターにおける在り方

最近僕は誤解されている。という話を皮切りにして、タイトルの主旨をだらだらと話していこうと思う。 どんな5階か。否、誤解か。それは僕が知的であるということだ。断言しよう、僕には俗に言う論理的思考という力がとことん死滅している。とことんと。とん…

死病

目の前で大きな大きな人間が泣いている記憶がある。顔を歪めて、床にぽたりと水を垂らした。溢れた水をぐっしょりと吸収しきって水を垂らすティッシュ・ペーパーみたいだった。せっかく口から含んだ水分を目から垂らすのはなんだかもったいないように思った…

二つの容器

私たちは19年前、ひどく病気に罹った。大抵の人はそれを病気とは思わないらしい。だからこの病気は未だに認知されていないみたいだし、正体は分かっていないようだ。 それとは別に私たちは物心ついたときから、二つの容器の中で生きていた。大抵の人はひとつ…

疑似家族

先日、私が衝動的に発したシェアハウスツイートの雑感でも述べていこうと思ふ。 一言で理由をいえば「疑似的な家族」が欲しいという欲求が端を発しているようだ。私は家族の愛情というものを受けてこなかったし、肉体的な(あるいは精神的な?)性質により世間一…

殺人者の手紙

過去に人を殺した。決して殺そうとしたわけではない、なんて言葉は使い物にはならない。あのときに僕が感じていたのは怒りと、確かな快感だったから。僕が中学2年生のときの話。ブレーキの効かない若さに煽られて、血気盛んな若者たちは弱者の権利を食い潰す…

神について語る

僕らはどこから来たのか?という問いに対し、今の僕は「最初に世界を形作るきっかけとなったが、それ以降では世界に目に見えるような影響を与えず」「特定の人格を持たず」「(今の)人間には理解が及ばない」ものから世界が始まったのだと思っている。それは例える…