染み

 森林浴。つまり僕。の、住んでいる家では夜、エアコンの音だけが響いている。僕とエアコンと、それとパキラちゃんの三人、と、思っていたのに、眠りに落ちると夢の中で、その夢の中で本当に独りだ。そこでも結局布団の中なのだから、夢の中で眠りについてまたそこで夢を見たりする。だからこの夢の中で見る、たまに見る夢の話をしよう。話をしたところで、なにかが変わるわけではないのだけど。

 夢の中の夢の中では僕は「染み」になっている。暗闇の中で仄かに光る青い染みだ。何処に染みているのか……なんの染みなのか……分からないけど、でも僕は「染み」で、あどけなく青く光ってる。「染み」は広がる。と、いうよりは、沈んでいく。少しずつ、ゆっくりと、確実に。ズブズブという音が、良く似合うほど。染み込んでいくんだ。昆虫みたいに、なんの感情もなく、それが自然で、ありのままで。

 下へ……下へ……沈んでいくのは気持ちが良い。ずっと沈んでいたいとも思う(嘘つき。ずっとなんて、それじゃ夢の中の夢からも覚められないだろ。困るだろう?)、……なんにせよ、そうはいかずに何処かに留まる。でも、「染み」は留まろうとしない。「染み」は広がる。でも、広がるにも限界がある。ずいぶん広い空間に行き着いたみたいだ。仕方がないから「染み」はそこら中を動きまわる。そうすると細い隙間を見つけて(隙間の場所は毎回違う(多分)(場所を覚えていないだけかも)(毎回忘れるなら常に新鮮味があって良いよね))、そこに入り込んでみるんだ。

 なにもない時も多い。そこで夢から目覚めたりもする(もう一回目覚めないと現実には戻れないのだけど)。なにもなくない時は? 少女がいる。少女と言っても姿はない。声だけがあって、それが少女のそれなんだ。ハスキーボイスと書けば伝わるか分からない。

 雑談に終始することもあるけど、たまに手伝いをすることがある。そんな時には、一例としてはひび割れた玉があったりして、そのひびに入り込むことを要求されたりする。なるほどこれは、「染み」にしか出来ない、と唸るような要求だ。「このひびに入り込むとなんかあんの?」と聞くと「ニュースをみたら分かるよ」と言われるのだが、そんなものを見る習慣がないしわざわざ見るのも面倒くさくて僕にはなにも分からない。大体が夢の中の出来事なのだから本気にはならない。

 大体が、そうそんなものだ。でも、帰る時(起きる時)が一番めんどうだったりする。もう帰るのか、私は話したいって、口には出さずとも態度に出てるから(姿がないのに態度とはこれいかに。まあ気配、か)。いつ会えなくなるかも分からない相手に、そこまで執着するのはあまり良くないと思うけど、僕は僕でなにも口には出さない。

 今夜は会う気がしない。寂しがっているかもしれないが、他の人と会ったりしていることを願う。エアコンの音が響き続けている。でも僕の眠りはそんなもんじゃ妨げられはしない。どや。

 こんな話を最後まで読んでいるのは僕のマニアックなファンと物好きする人だけだろう。オチもなにもないが、暇潰しになっていたら嬉しい。寝ます。お休みなさい。