殺人者の手紙

 過去に人を殺した。決して殺そうとしたわけではない、なんて言葉は使い物にはならない。あのときに僕が感じていたのは怒りと、確かな快感だったから。僕が中学2年生のときの話。
ブレーキの効かない若さに煽られて、血気盛んな若者たちは弱者の権利を食い潰す。どこでもそれが起こりえるように、僕のクラスでも虐めという名の拷問が行われていた。その状況が世に定着しているかのように、至極当然のように、彼を守るものはいない。やがて彼は学校からいなくなった。そしてこれまた当然のように、次のターゲットが選ばれる。次のターゲットは僕だった。殴られ奪われ笑われた。
なぜ僕が選ばれたのかは、僕が物静かで大人しいと思われたからというシンプルな理由だと思う。が、僕は彼らが想定するほど大人しくはなかったのだ。彼らが僕を人気のない場所に呼び出したある日、僕は包丁を持参していた。

 彼らはいつものように僕を殴り罵倒しようとしたので、僕は包丁を持ち出した。彼らは青ざめ、リーダー格の人間が僕を「気違い」といった。僕は頭が真っ白になり、そいつに向かってナイフを振り下ろした。依然頭は真っ白のままだったが、その白さの中にとろけるような、感じたことのない最高の甘味が染み込んだ。彼は死んでいて、僕は少年院に送られた。

すでに僕は少年院からは出社し、非正規ではあるが仕事をこなす身だ。友人もいる。が、長続きするような関係を築けることはなかった。ずっと誰かと一緒にいると、頭が真っ白になり、あのとろけるような甘味と殺意とが頭の中に現れるからだ。あの感覚、甘味、殺意、それらすべてが僕を乗っ取り、抗うことが難しくなる。その感覚から逃げるがために、僕は多くの友人や恋人を失ってきた。
僕は一体どうすればいいのかが分からない。甘味は、今は仲の良い友人や恋人に対してのみ現れるが、今後誰に対してもそれが発現するかもしれない。僕は、誰とも関わってはいけないのかもしれない。僕は社会とは関わってはいけないのかもしれない。僕は自殺するしかないのかもしれない。それは嫌だ、と思う。だがそれでも──どうすればいいのかが分からない。このような殺人者が、どこにも受け入れられるはずはなく、それならば自分は死ぬしかないのではないか、生きていてはいけないのではないか、そんな思いがグルグルして離れることがない。このようなことは、誰にも言うことはできず、言ったとしても、誰にも受け入れられることはないのだから。