2021-01-01から1年間の記事一覧

紛い物

私に声を掛けた男は、黒一式のジャケットとスキニーパンツ、そうしてごった煮の装飾を纏い、口元の筋を歪めた。色らしい色を目に宿さず、機械的な眼球がてらてらと視界を舐めている。ロボットがもう少し人間に近付こうとすれば、このような姿を手に入れるこ…

共栄

微睡んだ意識の中で重いまぶたを無理くりに持ち上げる。息子の応答に応えなければならなかったからだ。8月の午前五時、仄かに陽が満ちる早朝、さやかに響く歓声に意識を持ち上げられる。妻も目覚めて二人、上体を起こす。 「どうしたんだ」と私が言う。 「い…

多種多様な仮想人格を広大な精神内部にぶちまけた貴方はそのうちに殺されるだろう。と預言者は言った、たぶん自分の予言を余り信じていない夜のガードレール染みた暗くて白い顔。太陽を知らない耽美な肌。日本人形のごとく、少しずつ色味をズラした金と紫の…

寄る辺

夕の射すマンションの通路で隣室の老婆と鉢合わせをした。彼女はなにか黒い布で覆ったものを両手に抱えていて、僕に爬虫類じみた眼を向けていた。いつも小さなしわが無数に彫られた暗い顔をしていて、服は縒れ、比喩でなく異臭を放っていた。僕の目と鼻と感…

日記?──6month2day

夢を忘却した眠りから抜け出ると時刻は午前4時だった。が、空は既に少々青みがかっていたし、しっとりとした熱気があり、鳥がチュンチュンと囀ずっていた。彼らの声には凪いだ水面のような優しさがあり、それが僕に喜びを与えたのでもうすっかりまぶたの重…

吐瀉

気味の悪い暗闇が広がっている。体全体と唇とに柔らかい触感を感じていた。触感の正体がなにかは忘れてしまった。しばらくその感覚に身を委ねていた。暗闇と感触の経験だけがあった。やがてそれらの感覚は無くなった。目蓋を開け光を受け入れると、目の前に…

自己考察メモ ─障害、過去、離人症、スキゾイド、アレキシサイミア

趣味もせずにずっと独りでい続けると、喜びも向上心も苦痛も存在しない、かといって悟りというほど格好のつくものでもない緩やかな虚無とでも言える状態になる。普通ならそうなる前に退屈を覚えて苛立ったり、なにかしたくなるのかもしれないが、以前の自分…

また会おう

独りぼっちの神様になりたい、そのように思った記憶が確かにあった。それは遥か昔、私がまだ若い人間だった頃の、泡沫のような記憶だ。 第三次世界大戦の際に放たれた、生命の肉体を溶かすB・W爆弾が飛び交って飛び交って地球を外周し、隙間無く地球の全土に…

burn my dread

世界のすべてを覆い尽くさんばかりに美しい夕陽の下で緑がそよぎ稲は安らかに垂れ泥は揺蕩いその内部には雑多な生命が揺れて各々輝きを迸らせている、ように見えるその景色はありもしない偽りであることを、私は理解していた。この場所には誰もいない。稲を…

狂人日記

ここにいる僕、あるいは私、俺、君、お前。各々の性質、各々の存在。あまりにも分かたれた対の我らよ。あなた方はあまりにも生きも絶え絶えに這い縋り良くもまあ絶望の穴を埋めては掘ってその形を保とうとするものだ。何回死んだ。きっと億回。世界の有り様…

欲望

そろそろだと感じた。今日もまた、私はあの崖にいかなければならなかった。そのような思考を片隅に置きながら私はマウスやキーボードの上に指を踊らせる。 製品を造るための設計図を作らなければならなかったからだ。これは義務感に乗っ取った退屈な作業でも…

迷走

死んだ曾祖母はキリシタンだった。 一世紀近い時の流れを支えた純白の遺骨を眺めながら僕が考えていたのは、曾祖母の神に対する姿勢だった。国のために、神のために、そのような大きな物語が途絶え微分されたショート・ストーリーが乱雑される現代にあたって…

吐瀉物

世界とは強者の総体である。 私のような矮小な人間が一つの座席を破壊したこと。一つの栄光を剥奪したこと。そのような事実は世界への私の興味を喪失させる。彼らがどれほど情熱を傾けようと私が冷えた弾丸を一度放てばそれはあっさりと頭蓋を穿ちすべてを楽…

語らない男

幼い頃、母の墓参りをした日の夜に、こんな夢を見た。私は家のがたつきの悪い戸をガラと開いた。 「ととん、ととん、魚が釣れたで」 そう声を上げた。が、家の中には誰もいなかった。探しても父はおらず、入ることを禁止されている仕事部屋にいるのかもしれな…

誤解と、僕のツイッターにおける在り方

最近僕は誤解されている。という話を皮切りにして、タイトルの主旨をだらだらと話していこうと思う。 どんな5階か。否、誤解か。それは僕が知的であるということだ。断言しよう、僕には俗に言う論理的思考という力がとことん死滅している。とことんと。とん…